会社の朝会で話す番が回ってくる。 メンバーが入れ違いで自己紹介をするんだけど、 それに加えて「自分なりのこだわり」みたいなことを話す流れになっている。 自分の場合、つくってきたもの紹介とそれから学んだこと、みたいなのはどうだろうか。 結局こういうキーワードが出た。
作者冥利に尽きる。
今まで原動力になっていたのは、 プロダクトを使ってもらって嬉しい反応をもらうことだ。 なので「もしよろしければ、みなさんも(一緒に、じゃなくてもいいけど)作者冥利に尽きる体験をしましょう」 という流れにしようかと。上からだけど、まぁありでしょう。
で、作者冥利に尽きるにはどうすればいいか。メモを残す。
つくってきたもの
いわゆる「個人開発」というものをやってきた。 特にWebサービスをたくさんつくってきた。数えたらエロ含めて70個、除いて48個だった。 以下のスライドで全部網羅してある。
代表作は「ボケて」だろう。 アプリが700万ダウンロードされているモンスターサービスである。 2008年の立ち上げから2016年まで関わってきた。 エンジニアはひとり。 途中からフロントエンドエンジニアが入ったがそれ以外の全てのシステムをひとりでつくった。全部だ。 まぁ、とにかくいろんなことをやったし、それこそ作者冥利に尽きる瞬間をたくさんもらった。
印象的だったのは、とある就活生向けのセミナーみたいなのに僕が喋る機会があって、 それが終わったら、ひとりの女性が歩いてきてこう言った。
ありがとうございます。
話を聞くと失恋で悲しんでいたら、友達から画像が送られてきた。 それが面白くてクスリと笑った。気が楽になった。 それがボケてのものだった、というわけである。
結構そういう話があって、聞くたびによかったなとなる。
だいたいがくだらないジャンクなものだが、他にも感謝されたり、共感してもらったプロダクトがある。
- moo-pong - 映像の万華鏡。学生の時につくったメディアアートみたいなものだけど、たくさんの展示会でいろんな人に体験してもらった。
- CDTube - 2006年につくった。YouTubeとCDセールスランキングを組み合わせると、自動的に音楽番組ができるというマッシュアップ。その当時は物議を醸した。
- anpiレポート - 東日本大震災の時につくった。Twitterの安否確認をするツイートを人力でまとめるサービス。大変なことが起こったけど、少しでも役に立てたかもしれない。
- Hono - 現在進行系でつくっているWebフレームワーク。主に海外の方に使ってくれる人が増えて「Great work!」と言ってくれる。
プロダクトアウト
マーケティング用語に「プロダクトアウト」という言葉がある。
プロダクトアウトとは、商品開発や生産、販売活動を行う上で、買い手(顧客)のニーズよりも企業側の理論を優先させることである。「作り手がいいと思うものを作る」「作ったものを売る」という考え方。
こういう発想じゃないといけない。 あと、「プロダクトアウト」って言葉がかっこいい。 使ってみたかった。
迎合でもなく、アートでもない
それに加えて「迎合するわけではなく、アートでもない」というものをつくりたい。 ユーザーのため「だけ」につくるわけでも、自分ため「だけ」につくるわけではない。 自分がいいと思ったものをつくって、それに共感してもらうのが一番いい。
エンジニア発のサービス
悪く言うつもりはないが経営者の考えるアイデアとエンジニアのそれは特色が違う。 僕はエンジニアなのでエンジニアっぽいアイデアの方が好きである。
例えば、僕がよく知っているエンジニア発のサービス。
- SmartNews
- togetter
- Zaim
- Zenn
SmartNewsはまだモックアップの段階をかいせい君から見せてもらっていた。 確かイベントの帰りの電車の中で、 かいせい君は楽しそうにスマホの画面を操作して「このタブをめくるUIいいでしょ」って言ってた。 まさにエンジニアっぽい。
一般化する
やってることを一般化するのが大事で、「これすごいでしょ」って身内で言ってても説得力がない。 例えばブログ記事にしたら見向きもされないとか、 いざブログ記事にしようとしたら実は大したことないとかってよくある。
世界に出る
さらに世界に出る。 世界に出るということは単純にプロダクトに共感してくれるパイが増えるのでとても良いことだ。
今だとGitHubを使えば世界に出れる。 Honoにスターを付けてる人の国籍を見ると、ナビミアとかグアテマラの人がいてどこ?ってなるのが面白い。
技術の先を見据える
どうせつくるなら技術的なチャレンジをしたい。その方が面白い。
ボケては2007年に開発を始めたのだけど、AWSを使っていて、国内でもかなり早い段階から導入していた。 驚くなかれ、その当時はEC2とS3くらいしかプロダクトがなかった。 写真を大量に扱うサービスだったので、自前で持たずS3でホスティングしたのはいい選択肢だった。 2012年にスマホアプリを出したんだけど、 その時には今で言うマイクロサービスとかBFFみたいな構成を目指してAPIをつくった。
こうした技術的な興味をモチベーションにするのもいいでしょう。 だからといって今「Next.jsでつくってます」とドヤ顔されても困るけどね。
拒むものを避ける
クリエーターは政治が嫌いだ。 意見を通すためにネゴシエーションが必要な状況は本当に嫌いだ。 だから、そういう面倒なところからなるべく避けたい。
僕が個人で開発をしてきたのはそういう理由が大きい。 ただ、個人だと上に書いた「一般化する」がおろそかになるので、気をつけないといけない。
ハクをつける
つくって、使ってもらう。 本来ならそれで十分なのだが、ハクをつけるのも大事だと思う。 例えば、賞を受賞する。
moo-pongは「DAF東京PRIZE」というイベントで「インタラクティブ/インスターレション部門」をとっている。 CDTubeは今はなきネトランにたくさん掲載され「ネトラン ベスト・オブ・超凄サービス大賞」をもらった。 ボケては2013年の「文化庁第17回メディア芸術祭 審査委員会推薦作品」になっている。
と書くとすごそうでしょ。実際すごいので、賞をとってそれを記録しておくことは大事です。 すごいのが分かると使ってくれる人が増えるからね。
Yak Shaving
何かをつくる動機はなんでもいい。 よくあるのはYak Shavingの途中にできるってこと。
yak shaving は、ようするに「ある問題を解こうと思ったら別の問題が出てきて、それを解こうと思ったらさらに別の問題が出てきて…」ということが延々と続く状況を表しています。ちなみに、ヤクとは毛が長い、牛の一種です。
Honoは最初からWebフレームワークをつくろうと思ってつくり始めたわけではなく、 「Cloudflare WorkersでWebアプリをつくろうとしたら、いいフレームワークがなかったので、つくってみた」 というのが本当だ。
作者冥利に尽きる
料理をつくってそれを食べてもらって美味しいと言ってもらう。 それも作者冥利に尽きる経験である。 もし、それがあなたのつくってるWebサービス、 ソフトウェアでできるのならばどれだけ嬉しいことか想像してみてほしい。
さて、果たしてこんなことを朝会で話していいのだろうか。